ろばーと気まま雑記

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映画『マスカレード・ホテル』感想 綺麗なバディものの作品として

東野圭吾「マスカレード」シリーズ第1作を、主演の木村拓哉をはじめとした超豪華俳優陣と共に映画化した年明けの邦画話題作。
最近の劇場鑑賞作品が『ボヘミアン・ラプソディ』、『平ジェネFOREVER』といった"エモさで殴り倒してくる"系の映画ばかりだったので、久しぶりにこのような"構造の味わいを魅せてくる"作品に触れられて非常に満足でした。…俳優陣の豪華さにはしっかり殴り倒されましたが。笑

個人的な所感をまとめると、構造がしっかりした小説を名俳優をこれでもかと使って映像に落とし込んだ作品だったかと。
高級ホテルのセット、音楽、超豪華俳優陣、歪なバディの関係の進展、事件の真相など鑑賞すれば様々な要素のどこか1つは必ずヒットする作品になっているはず。


「この先、ネタバレード・ホテルへのエントランスとなります。ご利用をお控えになるお客様におかれましては、鑑賞後に再度のお越しを心待ちにしております。」

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(C)2019 映画「マスカレード・ホテル」製作委員会 (C)東野圭吾集英社

物語の流れとしては、刑事の新田浩介とホテルマンの山岸尚美というバディの元に宿泊客という形で異なるゲストが毎日訪れる事でオムニバス形式に話が進んでいき、その中で本筋の連続殺人事件の捜査のヒントが得られていく。
連続殺人事件の解決というミステリ要素の本筋にバディもののドラマが乗っているという構造。



ホテルの一日と宿泊客がオムニバス調に登場するという点の見せ方が上手かった。 10時過ぎにホテルの1日が始まり、大勢の宿泊客で混雑するホテルに、ゲストが訪れる事でドラマが進む。 日が沈むと昼間の喧騒が嘘のように静まったホテルの一時が描かれ、エントランスの景色が夜から朝に移り変わり、また10時過ぎの時計が写される。 そして今度こそ事件が起こるのではないかと次のゲストがやって来る。


また、物語を引き立たせる演出としてあの豪奢なホテルセットと優美な音楽はやはり劇場で味わう価値のあるものでした。レイトショーで1200円とドリンク代しか払っていないのに1泊何十万もしそうなあの高級ホテルにいるかのような錯覚を与えてもらえる。あぁ、贅沢。


ただ、観てる側としては、バディものとしての部分に焦点を当てたか、バックにあり物語の本筋でもある連続殺人事件の解決という部分に焦点を当てたかで鑑賞後の評価が別れるのかなと。


バディものとしての描かれ方は短い上映時間の中で綺麗に落とし込まれていると感じられ、結成当初のいがみ合い、少しずつ互いの価値観を理解する過程、互いに信頼感が芽生えるもののそれぞれの職に対するプロ意識からの軋轢、そして自分の矜持をかけ、また相手の矜持を尊重するクライマックスと、どの場面もドラマとしては満点だったのではないかと思います。
まぁ個人的にそういうお話にかなり弱いというか好物なのが大きい上での判定にはなりますが。


逆にホテルへの宿泊客も加えて考えた時、連続殺人事件にまつわる群像劇と捉えた場合はいまひとつ残念な部分が感じられたのも確か。
まず群像劇と言えるほどにまで宿泊客同士の関係性が描かれることはないのが残念。
原作を読んだことが無いのであれが忠実なストーリー展開なのかもしれませんが、予告では同日にホテルに滞在している人間同士のやり取りの中で捜査が進んでいくという展開を想像してしまえる仕上がりだったため、予想と違う作品が出てきたなという感じはどうしてもしてしまうし、改めて読むとキャッチコピーの「全員を疑え、犯人はこの中にいる」には疑問符がつきます。
もちろん新田は怪しい宿泊客は逐一睨んでいくわけですが、捜査というよりは観察の域を脱しないため、犯人として疑っているというインパクトはつきにくいように感じました。
新田個人だけでなく警察側の目線からホテルの宿泊客を捉えた描写があればもっと事件捜査感が出てきたのではと思うのですが。


それでも個人的には新田&山岸が最初のお客様としてもてなし、その時にはさもお客様を信じてサービスを提供したホテルマン側に正義があったかのように描かれた老婦人が、実は盲目を装った女であり真の黒幕というのは上手いなぁと唸ってしまった。
そしてその女を演じたのは『HERO』で木村くん演じる久利生公平のバディ事務官であった雨宮を演じていた松たか子であるという作品を跨いだ配役にはやはり心踊るものがありましたね。
(キャストにいるはずなのにそこまで登場しなかったことから予想はついてしまっていましたが)
同じ俳優が違う作品(世界)で異なる関係性を演じていることで味わえる、あの世界での2人が違う世界に放り込まれたらこうなってしまうのかもしれないというメタ的な目線からの妄想が楽しい。笑


欲を言えば警察組織内の人間関係や、ホテル側と警察側の思惑の違いから生まれる交錯の描写をもう少し見せてくれると嬉しかったなと。
たとえば能勢が新田と密かに組んで裏で動いていた事を上層部に報告せざるを得なかったというシーン。
あそこで新田は一度能勢に対して失望するわけですがその根拠となる感情が劇中の描写だけだと弱いんですよね。
上司に疎まれていてそれを見返すためにどうにか手柄を立てたかったからなのか、それとも新田という人間が実はそもそも昇格に執心した人間でありそのネタがひとつ潰れたためなのか。
そういった点は憶測で鑑賞せざるを得ない。
ベルボーイにつかされた関根は常に新田に走らされているように見えますがそれは役職上の関係なのか、関根も能勢と同じように新田に魅かれるものを感じて慕っているのか。
そういった組織内の人間関係の機微やそもそも警察としての動き方が見られないため、まるで事件を追っているのは新田のみかのような印象を受けてしまう。


また、冒頭の担当箇所の割り当てシーンでフロントだけでなくその他の持ち場でもホテルマンと刑事のタッグが組まれていることは分かるわけですし、初期の新田と山岸ほどにはならないにせよ、両者の「犯人を捕らえたい」「お客様の安全を確保したい」という思惑の違いから齟齬が生まれる場面があるであろう事は容易に想像できます。
例えば捜査本部での会話だったり、バックヤードでの会話で互いの価値観の相違から不満をこぼす刑事/ホテルマンの光景があったとして、序盤はそれに乗っていた新田/山岸が途中からは相手側の価値観に基づいて擁護めいた言動をするシーンがあればもっとニヤッとできたと思うんですよね。

もちろんあれも見せたいこれも見せたいでは作品は破綻してしまうし、あくまで原作小説が存在する作品なので1人の鑑賞者が絵に描いた餅に過ぎないのですが。


結局、先にも書いたように対極に位置するバディが、互いのプロとしての職業観に触れていく事で信頼関係を構築していく様に目が行ったかどうかで決まる作品なんだと思います。
自分は製作陣のミスディレクションにまんまと乗っかり目を向けたので非常に満足しているわけです。
あとは木村くんを見に来たのかどうかとかですかね。笑


そしてSMAPヲタの親に育てられその影響を強く受けた人間としてはやっぱり木村くんの演技、あの遠くを見つめる目付きと足元に落とす視線はまだまだ見ていたいなぁと思った次第です。
あぁ、高級ホテルに贅沢に泊まる旅行がしたいものだ。